前回に引き続き、今日もヌーソロジストの方向けの記事になります。

前回(「幅は2種類ある」書いた、Ψ10(乳幼児期)Ψ9(児童期)でできる、自我に蓄積されたイメージとしての幅の意識化とコントロールにつまづくと何が起こってくるのでしょうか。

その課題にはじめて向き合うのが、13〜14歳前後からはじまるΨ12前半の時期です(「ヌーソロジーと人間の性格を形成する4つの要素」参照)。

この時期から、Ψ10で蓄積されたイメージとしてのエニアグラムタイプの影響が徐々に浮上してきます。心理学でいえば、自我同一性(アイデンティティ)を確立していく時期です。

ヌーソロジーでは、意識が精神(純粋持続=奥行き)の方向を失うことを「融解」と呼びますが、この融解の状態には、構造的に見ると2つの種類があります。

Ψ9の影響力が強いながらも、Ψ12前半の方にかろうじて多く自己同一化し、各エニアグラムタイプの不安から精神病理を発症する場合と、Ψ9の影響力が強すぎて、Ψ12前半のエニアグラムタイプに自己同一化できないで「他者化」してしまう場合です。

今日は、その中でも、後者の「他者化」の3種類についてのお話をしようと思います。


目次:ヌーソロジーにおける個人の意識発達の流れ
   他者化とは?
   ヌーソロジーにおける他者化のシステム
   Ψ9とΨ12前半のバランス
   Ψ12後半=社会的権威・社会的思想との同一化
   Ψ11前半=理性・科学・論理との同一化
   内面3兄弟は仲がいい 
   ヌーソロジストと他者化 


ヌーソロジーにおける個人の意識発達の流れ


ではここで、もう一度ヌーソロジーにおける個人の意識発達の流れをおさらいしておきます。

詳しくお知りになりたい方は、「ヌーソロジーと人間の性格を形成する4つの要素」「シュタイナー思想とヌーソロジー」の感想記事をお読みください。

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個人の意識発達は、

Ψ8〜7(胎児期)→Ψ10(乳幼児期)→Ψ9(児童期)→Ψ12前半(思春期)→Ψ12後半(青年期)→Ψ11前半(壮年期)→Ψ11後半(老年期)

という順番で進みます。

*「シュタイナー思想とヌーソロジー」感想記事では、1段階が7年で、42歳までで1パターンが終わり、42歳からまたΨ10から同じことが繰り返されるとしていますが、今回は人間の一生に当てはめています。(どちらを採用するか思案中です。。)

図中の青い矢印は奇数系のNOOSの力、赤い矢印は偶数系のNOSの力を表しています。NOOSとは進化の働き、NOSとはその反映となります。人間レベルでは、NOOSとは精神的な力、NOSは感性や感情の力となります。

そして、中央の点線の矢印を挟んで、右側の4つの矢印は外面の力(主観)、左側の4つは内面の力(客観)となっています。

これを頭に入れて、早速「他者化」のお話に移ります。


他者化とは?


通常、13〜14歳前後になると、自分の内側から湧き上がってくる、それまでと違うタイプの欲求や不安と向き合わされるようになります。この自分の内側から湧き上がってくる欲求や不安が、エニアグラムタイプから生じるものだと私は考えています。

人間は、そこから、好き嫌い、価値観などのアイデンティティを確立していくのです。

きちんと自分の欲求・不安と向き合って、それと合った外界の情報を取捨選択することで、本当に自分の内側とつながったアイデンティティを形成します。

でも、先程もお話したように、Ψ9、つまり親の影響が強すぎると、Ψ12前半のエニアグラムの作用がネガティブに出てしまったり、Ψ12前半でするべきアイデンティティの確立ができないまま、Ψ9の親の価値観や、家庭環境、学校生活で作られた自己イメージに自己同一化してしまったりします。

この後者が「他者化」の状態です。

「幅は2種類ある」では、エニアグラムも幅のうちと書きましたが、エニアグラムの力は、自我の基盤が作られる乳幼児期に同時に作られる、より潜在的で本質的な力です。

図を見ると、エニアグラムが作られるΨ10、それが発現するΨ12前半は図の右側にありますね。これは、つまり、外面の力、自己意識のもとになる力ということです。

つまり、エニアグラムは幅は幅でも、自己の本質により近い位置にある主観の力といえます。

その、より本質に近いエニアグラムタイプを抑圧・無視して、より表層的な、成長後の親の価値観や家庭環境、学校環境などの他者に作られたイメージと自己同一化してしまうのが「他者化」なんです。


ヌーソロジーにおける他者化のシステム


ヌーソロジー的に言うと、Ψ9が強すぎて、Ψ12前半に行くことができず、Ψ6に意識の位置が回収されてしまうということになります。

なぜΨ6なのでしょうか。

「幅は2種類ある」では、自我が最初に3次元空間に触れるのは、Ψ10がΨ5〜6をなぞる肛門期と書きましたが、厳密に言うと、それはまずΨ6の力によって成されます。

肛門期に入る条件として、ラカンの鏡像段階で、他者から見られた自己の身体イメージ=Ψ6がまず作られるからです。

ここが1つ目の幅=自我の枠組みの基盤となるところになります。

次の男根期に入ると、Ψ10は客観や概念を作るΨ7〜8に関与し、今度はそこからΨ9の思形へと進んでいきます。このΨ9に当たるのがフロイトのいう潜在期=児童期です。社会的規範の学習などの、父性への同一化が起こるところです。

上図からも分かるように、このΨ9はΨ6の上から被さるようにして抑圧をかけてきます。

Ψ9におけるこの抑圧が強すぎると、外面方向のΨ12前半に意識が成長していけず、意識はそのままΨ6の位置に停滞してしまいます。

そしてそのとき、Ψ6は、Ψ9の親の価値観や家庭環境、学校生活で作られたイメージに同一化を余儀なくされます。

外面=主観的意識とは関係ない、外の情報を自分と思い込むのです。

つまり、ヌーソロジーの構造論的には、他者化とはΨ6がΨ9に同一化している状態であると言えるでしょう。

心理学でいえば、マーシャの自我同一性地位の「早期完了」の状態になります(「心理学における精神的健康」参照)。


Ψ9とΨ12前半のバランス


でも、Ψ6としてΨ9に同一化している全員が、エニアグラムタイプが全く表れていないというわけではありません。

通常は、いくらかの影響は出ています。分かる人から見たら、エニアグラムタイプが分かる程度には出ている人もいます。

Ψ9とΨ12前半、どちらに多く自分が自己同一化しているかが大事なんだと、私は思っています。

つまり、Ψ9が6割でΨ12前半が4割ならば、他者化の状態にあるということになります。

逆にいえば、Ψ12前半により自己同一化していたとしても、Ψ9の影響がある人もいて、それが精神病理などの問題を引き起こすのだろうと考えています。


Ψ12後半=社会的権威・社会的思想との同一化


この「他者化」してしまったΨ6は、Ψ9だけに同一化するわけではありません。

Ψ6としてΨ9に同一化してしまうと、自動的に上図の左側、つまり他の内面の矢印2つの影響も受けやすくなります。

Ψ12後半とΨ11前半です。

では、そもそもΨ12後半とはどういう力だったでしょうか。

Ψ12後半とは、「シュタイナー思想とヌーソロジー」感想記事でも書いたのですが、「他者から見た他者としての自己イメージ」「社会的個」を作る力です。

*ひとつ、シュタイナー感想記事と私の中で変わったことがあります。「赤色メガネ」、つまり今回の記事では「他者化」と同じ意味ですが、これはΨ12後半に主に位置するのではなく、Ψ9とΨ12前半をきっかけに生じ、Ψ6がΨ9、Ψ12後半、Ψ11前半の3つに影響を受けるというように考えた方がいいかなということです。

このΨ12後半は、社会的な自己・他者イメージを作る力なので、他者のΨ12後半に同一化するということは、社会的権威や社会的に共有された思想に同一化するという意味に取れます。

このブログでも扱ってきた「権威主義的パーソナリティ」や、今ネットで流行っている女性らしさ、男性らしさ、ミソジニー、フェミニズムなどに同一化してしまう状態も入るのではないかと思っています。

そして、通常は外面系のものと考えられる宗教や精神世界系の思想、占星術などへの傾倒も、Ψ6としてΨ9に同一化して、Ψ12前半を抑圧している場合には、Ψ12後半への同一化=「他者化」となってしまいます。

もちろん、ヌーソロジーも例外ではありません。


Ψ11前半=理性・科学・論理への同一化


社会的に共有されている1つの思想としては、ヌーソロジーへの同一化はΨ12後半といえますが、個人で追求する際には、理性や論理への同一化ともいえます。

Ψ11前半は、理性や科学的合理性、数学的思考などを意味しますので、Ψ11前半への同一化は、理性や科学への同一化と考えられます。

この理性や科学への同一化が3つ目の「他者化」です。


内面3兄弟は仲がいい


私は、このΨ9、Ψ12後半、Ψ11前半のことを、内面3兄弟(上図左側のピンクの大きな楕円部分)と呼んでいます。

Ψ12前半で正常なアイデンティティの確立につまづくと、Ψ6に回収され、Ψ9に同一化すると同時に、Ψ12後半、Ψ11前半にも容易に移行しやすくなります。

内面3兄弟は、非常に仲がいいんです。

最初の震源地はΨ9だったはずが、Ψ9での問題をないものとして、Ψ12後半や、Ψ11前半に逃避する力が働きます。

親の問題と向き合うのは壮絶な苦痛をもたらすので、自分とは全く関係のない、社会的権威や思想、宗教、精神世界、ジェンダー問題、理性、科学に同一化し、偽りのアイデンティティを作って、安定しようとするのです。

そうしているうちに、Ψ9の親の価値観、家庭環境・学校環境で作られた信念や自己イメージよりも、そうしたΨ12後半・Ψ11前半の自分とは関係のないイメージこそが自分だと感じるようになります。

もちろん、そこまで行かずに、Ψ9だけに同一化している場合もあります。

このように、Ψ12前半でアイデンティティを確立できず、この内面3兄弟のいずれか、もしくは2つ、または全部に、偽りのアイデンティティを持った状態をヌーソロジーでは「他者化」と呼んでいます。

そうなると、オコツトのいうように、まさに「意識が精神(純粋持続・奥行き)の方向性を失ない」、意識の「融解」の状態となるのです。


ヌーソロジストと他者化


そして、この他者化が生じてしまうと、本来その逆の進化の方向を目指すヌーソロジーでさえ、そこに利用されるようになります。

ヌーソロジーは、他者化している人が最も見たくない親子関係や抑圧された感情に向き合わずに、理性だけを使って知識を理解すれば、意識進化ができるような錯覚を与えてくれるから尚更です。

でも、前回の「幅は2種類ある」でも書きましたが、変換人への道はそんなに甘くはないんです。

少なくともヌーソロジーでは「宇宙のシステムは理性だけで意識進化できるようにはなっていない」ということは、上のケイブコンパスの図を見ても分かることです。

ですからヌーソロジストは、まず親や家庭環境、学校生活で作られた信念、価値観を意識化し、自由になって(Ψ9)、自分の欲求・不安・感情などの主観的世界と向き合い、それをもとに確固としたアイデンティティを作っていなければならない(ψ12前半)と思うんです。

そこにしっかりと軸足を置いた上で、ヌーソロジーを追求していかなければなりません。

そうでないと人間は容易に他者化して、ヌーソロジー自体が偽りのアイデンティティを逆に確固としたものとする道具になってしまうんです。

私はそれだけは避けたいと常日頃思っていて、今日もこんな記事を書いています。。

そして、Ψ12前半からΨ12後半、Ψ11前半、Ψ11後半の課題をこなしていくことです。

つまり、親子関係、友人関係、学業、恋愛、仕事、結婚、子育てなどを通して、アイデンティティの確立(Ψ12前半)、社会的個の確立(Ψ12後半)、理性の発達(Ψ11前半)、理性による自我の統合(Ψ11後半)をしていくことです。

この作業が、「奥行きから自我に蓄積されたイメージとしての幅を取り除く」=「赤色メガネ」「黄色メガネ」を外すことにつながります。

そして、これが変換人になるための基本条件であると、私は思っています。